成人式、管足、ピンク色。

 ウニという生物がどのように海の中を移動するかご存じだろうか。そもそもウニがどういった生物なのか知る人は少ないだろう。

 ウニは棘皮(きょくひ)動物というくくりに属する動物だ。ヒトデやナマコなどもこれに当たる。トゲのカワを持つ動物というなの通りウニはその中でも代表的な存在だ。

 ウニやヒトデやナマコを想像してほしい。彼らはパッと見たところ脚らしきものは持ちあわせないようだ。しかし実は、彼らは脚のようなものを持っている。ウニを至近距離で観察すると分かるのだが、針と針の間から半透明の管状のものが無数に生えている。これは管足と呼ばれ、棘皮動物の脚の役割をする器官だ。また獲物を捕えたりするのにも使う。

 私がこれを知ったのは高校1年生の冬、生物合宿でウニを観察したときのことだ。初めて管足を見た私は、エルフェンリートディクロニウスベクターみたいだなあ、と思った記憶がある。

 

 

 さて、2019年1月14日、成人式が行われた。私は新成人なので出席した。「成人式なんて行くかよ」とか言いつつ行った。髪の毛の色をピンク色にして行った。私はそういう奴だ。

 成人式での成人の服装ってのは大体決まっている。男はスーツ、女は振り袖。普段は個性個性言ってるアイツも大体スーツか振り袖。何たる無個性。

 ちなみに私はもちろんスーツだ。何たる無個性。

 まあそういうわけで、道行く女々みんな振り袖をきている。私は一人ひとり追うように観察した。心なしか顔もかわいい。メイクのせいもあるだろう。しかし私は気づいた。彼女らの首の回りにレフ板がついていることを。

 あの白いふわふわを見たとき、ウニの管足だと思った。白い毛の先がヒラヒラと漂っていて、まさに管足のような動きをしていた。

「そうかそうか」

 と私は納得してしまった。彼女らは管足を持っているのだと。

 

 ぼーっとしていると、あっという間に成人式は終わった。友人なんて数えるほどしかいない私に、あの会場で用意された時間は手に余った。中学校の同窓会も二次会的に開催されるようだが、私は出席しなかった。義務教育は制度が生んだ悲劇だ。

 帰りは途中まで知り合いと一緒にいたが、最寄り駅からは私一人で家まで歩いた。手持ち無沙汰だったので、耳の穴に音楽機能つきの便利な耳栓を挿した。なんとなくsunny car washのアルバム「週末を待ちくたびれて」をシャッフル再生した。「それだけ」が流れた。

「髪の毛の色が変わったあの子を見るのがなんとなく少し嫌だったそれだけ」

 私が一番変わってしまったのかもしれない。特に髪の毛の色が。